小規模高齢化集落(限界集落)支援
高齢者生活支援
地域に住む高齢者の形態は様々で、大きく分けると次のようなタイプに分類できる。Aの自立型は、自ら自動車を運転し、他出子や地域に依存することなく身の回りの全てを自らの力で賄っている人で、この人に対する支援は特段必要ない。却って他の高齢者を支援することで生きがいを創出する機会を提供することが重要である。一方、B、C、Dは地域で効果的な支援をすることでAの自立型へ移行したり、通年そこで生活することが可能となる。
生活支援の内容は、この自立度によって支援サービスの必要度と優先順位が異なる。従って、下表のような生活支援の内容を参考に要望を聞きながら具体的で効果的な支援を組み立てることが大切となる。その際、行政、社会福祉協議会、民生委員、地域等の連携が必要となるのは言うまでもない。
集落の世話や生きがいづくり、健康を支える食生活の向上支援、収入などを目的とした多面的な支援内容としては、次のようなことが想定される。
集落の戸数が減少していくと様々な支援ニーズが高まると予測されるが、3〜5戸になってもなんとか維持している集落も見受けられる。単に年齢や家族構成では必要とする支援内容は見えてこない。また、現状と折り合いをつけながら、つつましく生きようとする高齢者からは具体的な支援ニーズを引き出すのは難しい。ニーズが潜在化しているのである。問いかけられた本人にもわからない。しかし、確実に暮らしにくくなっているのは事実である。食品を買うのは多くて週に一回、日常生活用品に至っては月に一回、大型商品は年に一回・・・。多くは他出している子ども達頼り。そうした高齢者世帯が確実に増加している。
それぞれの地域の違いはあろうが、一般的に要望の高い生活支援は、草刈り、除雪、送迎支援である。
買い物・通院支援
高齢化が進行している集落は、町の中心部からも遠距離にある。しかも中心部とは異なり同じ距離でも急峻な坂道が多い。公共交通も主要幹線道しか通らず本数も極端に少ない。高齢者にとってバスが通る主要幹線に出るまでが困難を極める。大きな買い物袋を抱えて険しい坂道を帰ることを考えると、費用と時間をかけて遠方まで買い物に出かけることは躊躇われる。
高齢者二人世帯の場合、夫婦のどちらかが自家用車が運転できれば、それまでの行動範囲はほぼ維持され、買い物・通院に不便をきたすことは比較的少ない。しかし、70代の後半になると家族や警察から事故への心配を理由に運転を放棄することを求められる場合が多いようである。自家用車は、交通の便が良くない中山間地において、また足腰の弱い高齢者にとって欠くべからざる交通手段であり、自家用車が運転できるからこそ高齢者が条件不利地でも生きていけると言っても過言ではない。ところがいよいよ80代の半ばを越えると運転を諦めざるを得なくなる。いままで不便をきたさなかった高齢者二人世帯は、独居高齢者以上に生活不安を増大させる。
行政や福祉協議会が手配する公営のバスやタクシーは、多くて週2回程度運行されている地域もある。しかし、主要幹線道を中心に運転されるため、主要幹線道から離れて暮らす高齢者にとっては、必ずしも不便を補ってくれるものではない。除雪も主要幹線道までで、家に至る私道は除雪の対象外となりやすい。従って、特に積雪が多い地域に暮らす高齢者は、雪かきができないことと重なって、買い物や通院に極めて困窮することになる。近所で運転できる人に頼んで買い物や通院に連れて行ってもらうことも多いようであるが、もし万一事故があった場合などを考えると、共助を期待することには限界がある。高齢化率が高い地域では、近所での共助(助け合い精神はあっても実行が不可能)がだんだんと期待できなくなっている。事故のことを懸念する子どもたちや行政からの忠告で年々自家用車を手放す世帯が増加していることを考えれば早急な対策が必要である。週に1〜2回程度民間の移動販売車が日用雑貨や野菜等を販売している地域もある。自家用車を持たない高齢者にとっては、割高とはわかっていても利用せざるを得ない。地域に生活拠点を整備し、生活必需品などは容易に調達できるようになることが望ましい。高齢者のみの世帯でも半数が買い物には自家用車を使用しているが、事故のことを懸念する子どもたちや行政からの忠告で年々自家用車を手放す世帯も増加している。
従来型の路線型交通システムでは、過疎化し家屋が分散する中山間地域において利便性を確保することは難しい。一定水準以上の利便性を確保しようとすれば膨大な経費を必要とする。とすればデマンド型交通の運行やカ−シェアリングしかないように思える。しかし、これを地域の人たちが運営しようとすれば、ここには陸運法という大きな壁が立ち塞がる。利便性を確保しながら安全に人々を目的地に運ぶために制定された陸運法(道路運送法)であるが、実際は新規参入を防ぎ既得権益を守るという役割を果たし、本来の目的であったはずの“公共の福祉の増進に資する”ことの実現を妨げている場合が多い。
もう一つの方法は、ただ人を運ぶだけでは採算が合わない公共交通機関も、病院との契約運行をしたり、人と同時に新聞や行政配布物、宅配物や日常生活用品などを運んだり、逆に農産物を集荷したりゴミの収集などを同時に行うようにすれば、採算性は改善するであろう。運転手も週に2日はバスの運転をするが、2日は草刈りや安否確認などを行い、2日は事務作業をするというようなマルチワーク型にすれば効率的となる。公務員という立場だと困難であるならば地域の民間人に委託すればよい。
いずれにしても、全国一律の法適用ではなく、こうした従来にない柔軟な対応や単一の方法ではなく複合的な方法での「足の確保」が望まれる。
安否確認・緊急対応システムの必要性
さまざまな生活支援の中でも、特に緊急を要するのが安否確認と緊急対応である。高齢者世帯の突発的な事故への対応は、最も注意を必要とする支援であり、その可能性の高い世帯への配慮、他出している後継者との連絡態勢は日常的に整備しておく必要がある。
そこで次図のような安否確認(みまもり)システムを考案した。日常生活を営んでいれば一日に数回は通ると思える場所(例えばトイレや風呂への通路、仏壇の前、台所のゴミ置き場等)にWEBカメラを設置し、動体確認したときに静止画を写し、それを他出している家族の携帯電話やパソコンへ自動配信する。家族は、その静止画が送られている間は通常の生活ができていると把握する。場合によっては映っている静止画の様子から電話をかけて安否状況を確認する。もしいつもの時間に静止画が送られてこないようならば何らかの異変が想定される。そこで電話をかけて安否を確認する。何事もなければ電話で安否を確認できるであろう。もし何らかの事故が想定される場合は、契約している事業者へ連絡し、依頼を受けた事業者が確認に出向く。事業者は状況を把握し、その結果を依頼された家族へ知らせる。必要ならば救急車や警察などへ連絡するなどの措置を講じる。
こうした安否確認・緊急対応サービスの契約は、高齢者ではなく他出している家族と交わす。一日数回の静止画配信は、安否を確認できるという安心感を提供するだけでなく、姿が見えることで老親と連絡を取る機会も却って増えることであろう。こうした接点の増大は、ふるさとへの帰着意識を高め、ふるさと産品の直販だけでなく、Uターンなどを促進することが期待できる。
このシステムは、インターネット環境が整っていれば5万円前後でハード整備できることがわかった。毎月の契約料も3000円程度ならば需要があることがわかった。もし地域の老健施設がこの事業を運営すれば、24時間対応態勢も確立できる。月3000円の安否確認契約を100世帯と交わせば、毎月30万円の収入となる。この固定的な収入は、老健施設の経営に貢献するであろう。もちろん集落支援センターが運営すれば貴重な安定的運営原資となるであろう。
作業代行・事務代行支援
標準的な集落固有の活動としては、毎月行われる定例会(集金常会等)のほか、年1回の総会、集落内の道路掃除や盆踊り会などの行事への出夫(労力提供)等がある。これらは集落自体の運営や親睦のために必要とされているものであるが、他の役職は行政や公民館、農協、森林組合といった外部機関から集落ごとに一律に割り振られたものであり、その数は20以上に及ぶ。こうした役回りを大きく分類すると、概ね3つに分けることができる。
第1は、行政機関、農業協同組合、森林組合、農業共済組合、社会福祉協議会等からの調査連絡事項の周知および取りまとめ、保険等の勧誘、集金、募金徴収、調査ものの収集返送など
第2は生活関連の地域内活動、常会の開催、道路清掃活動、水道施設の管理、テレビ受信施設の管理
第3は宗教行事に伴う護寺会・神社委員会の役回り(護持会費の徴収・神社費の徴収)、葬式行事への出夫、神社祭典への出夫等である。
一般的に集落内の独居・高齢者のみの世帯が5割以上を占めると、こうした役回りを全ての世帯が平等に輪番で担当するのは困難になってくる。従って、一人が何役も担ったり、何年も同じ人が担うことになる。負担感は想像以上である。特に、会長や直接支払制度に関わる役は事務量が多く、なり手がいない。仕方なく直接支払制度の申請を諦める集落も少なくない。このように最も支障を来しているのは、各機関から要請される役員を選出することである。また小規模高齢化した集落では、道刈りや集落で運営する葬式などの出役も難しくなる。
こうした住民に対する生活支援としては、現在、部分的にはシルバー人材センターによる有償ボランティアで対応しているものの、持続性については不透明である。なぜならば地域全体が高齢化する中ではシルバー人材の絶対数は確実に減少するからである。また、こうした支援活動が無償か、あるいはごく少額の金銭によるボランティアで賄わざるをえないため広く人材を招集することができないからである。高齢化率の進行によりシルバー人材に依存した生活支援は、やがて限界がくると予測されることから、専門的に生活支援をする事業体が必要となる。
集落支援センターはこの事業体の一つの形態で、家、墓所、農地などの草刈り、冬季の除雪、集落行事への出夫代行などへ人材を派遣することによって今まで伝統的に行われてきた行事を無事遂行させたり、伝統行事を復活させるなどの役割を担う。また行政関連の調査・作業や各種機関からの依頼を処理することにより、小規模高齢集落の負担を軽減することを目的とする。特に小規模・高齢化集落にとって困難なのは、「中山間地域直接支払制度」や「農地・水・農村環境向上対策事業」等の申請事務等である。これらの事務の代行(マスタープラン作成ワークショップ運営、担い手の手配、放牧による耕作放棄地管理手配も含める)をすることで、高齢化のために集落単独では事務管理できなくなって制度対象から外れそうな地域も救えることにつながり、獣害防護柵の設置支援、市民農園的運用の手配なども地域ぐるみでできるようになると考えられる。ただし、こうした支援活動はあくまでも集落から要請があった時だけ行い、地域での相互扶助が可能な間は、これまで通り行えるよう見守るだけに止めることが大切である。
その他の支援
重要な支援の一つに、高齢者の会話を増やす支援があることがわかった。共通の話題が、コミュニケーションを再構築し、独居の不安を和らげ、共助意識を高めることに繋がるのである。
そのためには、お出かけツアーのような取り組みや、共同菜園等での野菜づくり、老老広場などのサロンの開設が有効と思える。特に、川角集落での子ナスの栽培と出荷に見られるように、それぞれの体調や状況に合わせた可能な範囲での栽培や調整・出荷に参加し小銭が稼げるような共同作業は、元気を創出しやすい。また、空き屋を活用して気軽に立ち寄れ宿泊もできる場所を確保すれば、残された機能と持ち味を出し合いながら助け合って生きていく意識と場を提供することになる。これが冬期の一時的避難場所となったり、自発的宅老所として機能したり、自然に無理のない集団生活型ケアへと発展することが期待できる。